全国では、クマの被害者の方が急増して社会問題となっていますが、大阪などでも目撃情報があり、山間部などクマに遭遇する可能性の高い建設業では喫緊の対策が必要になっていますので、関西2府4県の熊被害状況や建設業の熊対策について解説します。
関西2府4県における熊被害の実態
関西でも、最近はツキノワグマの目撃情報や人身被害が相次いでおり、その脅威が増しています。
2023年度(令和5年度)の全国の熊による人身被害は、統計開始以降で過去最悪のペースで発生しましたが、関西でも、京都市左京区の比叡山での登山客への襲撃や、京都府伊根町、奈良県五條市などで、住民や愛犬が襲われる被害が報告されています。
被害は山間部だけでなく、クマが餌を求めて人里に近い平野部や谷筋、河川沿いの林にも出没する事例が増えており、生活圏での遭遇リスクが高まっています。熊の目撃が少なかった京都府木津川市などの地域でも目撃情報が相次いでいます。
大阪府内でも、豊能町や高槻市、池田市などで痕跡の確認や目撃情報があり、広範囲での注意が必要になっています。
特に但馬地域など兵庫県北部や京都府北部、滋賀県北部では熊の生息域が拡大しており、2024年には過去最多クラスの出没件数が確認されています。
10月以降は、冬眠を前に木の実などの餌を求めて活動が活発化して、人里へ近づくリスクが高まります。山の餌が不作の年は、この傾向が顕著になりますので注意が必要です。
河川沿いの林の獣道、隠れ場所となる見通しの悪い草地、クマの水飲み場である水辺などが遭遇しやすい環境とされています。
関西の熊被害が比較的少なかった地域(京都府南部や奈良県中部など)でも目撃情報が広がっており、熊がいない地域だった場所にも熊が出る時代になっています。2023年以降、住宅地近くの建設現場や林道工事現場に熊が出没するケースも報告されており、建設業界にとっても安全管理上の大きな課題となっています。

建設業の熊対策
建設業は、山間部やその周辺の工事現場で作業を行うことが多く、クマとの遭遇リスクが大きくなります。作業員の安全確保と被害防止には、事前の準備と現場での徹底した対策が必要です。
音による対策
熊は聴覚や嗅覚にすぐれています。人の存在を知らせることが重要になります。建設作業員はクマ鈴やホイッスル、ラジオなどを携行して音を出して作業を行いますが、これらの音に熊が慣れないよう、爆音機や大音量の撃退音を発生させる装置の設置もよいでしょう。
現場環境の改善
熊の隠れ場所や通路となる見通しの悪いヤブや草地の刈り払いをして周囲の状況を見渡せるようにします。
食べ物の管理
現場に残飯や生ごみなどを放置せずに密閉して保管して熊を引き寄せないように徹底します。昼食は休憩所や車内などでとったほうがよいでしょう。
クマに遭遇したら
クマ撃退スプレーの携行しておきます。近距離で遭遇した場合の最終手段として、唐辛子エキスが主成分のクマ撃退スプレーを作業員が携行します。
ただし、すぐに使えるよう、カバンの中ではなく常に手の届く範囲に身に着けるようにして、事前に使用方法の訓練を行うことが重要です。クマとの遭遇に備えて緊急対応訓練を定期的に行い、遭遇時の対処方法も学んでおきます。大声を出さずにゆっくり後退する、攻撃された場合の防御姿勢などです。熊と遭遇した場合は背を向けて逃げず、ゆっくり後退するようにします。
作業で入山する場合には、自治体やマスコミなどから最新の目撃情報を入手して、危険な場所には近づかないようにします。
クマを見た場合には、社内や自治体などスムーズに連携が取れるような連絡体制図を事前に作成しておいた方がいいでしょう。
建設業の熊対策具体例
建設現場で具体的に実施されている熊対策の例をあげておきます。
現場
電気柵の設置で現場への侵入を物理的・心理的に阻止しますが、設置には専門知識が必要な場合があります。
音響・光
音響・光による威嚇も有効です。獣用心棒(クマ撃退特化型)の導入や不定期な大音量(特殊サイレン、銃声、猟犬の声など)と強烈な360°ストロボ発光で、夜間を含めた熊の接近を未然に防ぎます。
建設作業員の携行品
人の存在を知らせるための基本的な装備のクマ鈴、電子ホイッスル、至近距離で遭遇した際の最終的な護身用具として、腰などすぐに使える位置に携行するクマ撃退スプレーなどです。
兵庫県但馬地方のトンネル工事現場では、熊スプレーを複数配置して全員に「遭遇時行動マニュアル」を配布したそうです。
作業員の食事
現場では昼食場所は限定して、休憩所や車両内で食事をとり、食べ物の匂いが現場に残らないようにします。
残材・ゴミを管理します。熊の餌となる可能性がある残飯や廃棄物を放置せず、密閉容器で管理し、こまめに現場外へ搬出します。
訓練
緊急対応訓練を実施します。クマ遭遇時の対処法(慌てずにゆっくり後退、防御姿勢の取り方など)を訓練し、作業員の危機管理意識を高めます。
建設現場における熊対策は、熊を現場に近づけないことを優先として、万が一遭遇した場合に防御や撃退で被害を最小限に食い止めるための準備をすること重要になります。



